東京選抜合宿 05


「っあー!つかれたあ」
ばたっとは自分のベッドにうつぶせに倒れこんだ。
やっと合宿1日目が終わった。
は夕食も食べないで1人でさっさと部屋に戻ってきたのだった。

「マネージャーがこんなに大変だなんて…」
はあー、とはため息をついて自分で自分の肩をほぐした。

(なんで ここにいるんだろう)

すると
コンコン
ノックの音が聞こえた。

は突然の物音に驚いた。
ただのノックの音だと気づいて、
ベットから立ち上がりドアを開けた。
「はい?」

そこに立っていたのは風祭だった。
足元ではボールを転がしている。
「ごめん!こんな遅くに」
「あー…えーっと」
は予想外の訪問者に少し困惑していた。
「なんか用?」

「用ってわけじゃないんだけど、少し気になって」風祭が言った。
「何を?」は首をかしげた。
さん、サッカー…つまんない?」
「へ?何よ、いきなり」
「なんか…今日のさんを見てたらなんか楽しくなさそうで…
午後も、なんか疲れてそうだったし」
風祭は心配した様子でを見ていた。

「なんか設楽といいキミといい おせっかいだね」が言った。
「え 設楽君?」風祭は聞いた。
「ううん なんでもない サッカー…ね」
「ルールなら教えるよ!」風祭は言った。
「そうゆうことじゃなくて…なんで、ここにいるのかわからないんだ」
は少し暗い表情で言った。
風祭はそれに気づいて優しい声で聞いた。
「どうしてここに来たの?」
「叔父さんが来てくれって言われたんだって
でも叔父さんはに来てほしくなさそうだったけど」
「誰が言ったの?」
「西園寺コーチ」
「コーチが…何でだろう」
風祭は少し下を向いて考えた。
足元ではずっとボールをこねている。

「さあね 、来なければよかったかなあ…必要とされないし」
「何で?そんなことないよ!
さんのおかげで僕たちすごく助かってるよ!」
風祭はの目を見て真剣に言った。
「うそばっかし 皆と話してくんないし」
はしゅんとした。
「…それは…
さんにその気はなくてもさんの言動は
たまに相手を傷つけるからじゃないかな」
風祭は遠慮がちにしかし、はっきりと言った。
「話しかけてほしいならさんも努力しようよ
さん、僕に言ってくれたよね『頑張って』って
僕すごく嬉しかった!皆にもあーゆー風に接すれば…」
「あれはキミに本当に頑張ってほしかったから…!
他の人はキミみたいにいい人たちじゃない」は言った。
「いい人たちだよ!」風祭は訂正した。
「全然」はそっけなく言った。
話がだんだんとそれていく。

「来て!」風祭はの手をひいた。
「え?ちょっと!何!?」
「そんなことないって証明するよ!」
風祭はボールを転がしながら器用に歩いた。
2人はそれから風祭の部屋へ来た。

ガチャ 風祭はドアを開ける。
そこには、ルームメイトである不破、杉原、小岩
そして遊びに来た翼、黒川、畑兄弟、藤代、渋沢がいた。
部屋の割にあわない大人数だった。
皆でトランプをしていた。

「おっせーぞ 風まつ…り」
小岩はの登場に驚いた。
小岩だけでなく、その部屋に居る全員が驚いていた。

「おまえ、それ…」翼が言った。
「み、皆で遊ぼうと思って」
風祭は積極的に行動をしたはいいが、
皆の顔を見て少しやりすぎたことに今さら反省しているらしい。
は突っ立っているだけだった。
と、いうか風祭が何をしたいのかわからなかった。
(一緒に遊ぶ…?)

「いーじゃんいーじゃん♪大歓迎!!」
藤代が嬉しそうに言った。
「こっち座りなよ」
小岩は自分のベッドの上、不破は杉原のベッドの上で寝ている。
翼、杉原、藤代、渋沢が地べたに座り、
畑兄弟は不破のベッド、黒川は風祭のベッドに座っていた。
皆トランプを囲むように座っている。
かろうじて空いていた藤代の隣のスペースを
藤代は指差した。

「いや待て藤代、これはさすがにまずいぞ」
さすがはキャプテンの渋沢。藤代の前に手をあげて制した。
「何でっすか かたいっすよキャプテンは!」藤代が反発した。

さんもマネージャーの仕事ばかりだし、
息抜きしたいんじゃないかと思ってそれで…」
風祭はあたふたしてる。
ふう、と翼はため息をついた。
翼は風祭のしたいことがわかったようだ。
「まあいいんじゃない?ばれなけりゃいいんでしょ」
翼は後押しをした。
「そうゆう問題じゃないだろ」渋沢が言った。
「大丈夫だって こんな奴になんの感情もおきないよ」翼は言った。

はまだ突っ立ったままだった。
必死に考えていた。風祭が考えている事を。
(一緒に遊ぶ…なんで?いい人たちじゃないって言ったから?)
さん、入っていいよ」杉原は優しく言った。
はおずおずと部屋の中に入った。
「こっちこっち!」藤代が言う。
は藤代の隣のあいてるスペースに座った。
風祭は杉原と翼の間に座る。

普段のなら間違いなく「余計なお世話」とかなんとか言っていただろう。
だが、今回は違った。風祭の気持ちがわかったからだ。
仲間を想う、その気持ちが好きだった。

「この人数で七並べもねえだろ」黒川は言った。
「だいたい七並べなんてつまんなすぎ!やっぱサッカーしようぜ!」藤代が言った。
「さっき怒られたばかりだろ」渋沢が呆れ顔で言った。
「だから外でっすよ♪」
「じゃあ大富豪にしようぜ」小岩が言った。
「こんな大人数でできないと思うよ」杉原が冷静に言った。
さんは何やりたい?」風祭はに話しかけた。

はしばらく考えた。
は風祭の気持ちがわかった、故に風祭の気持ちに答えたかった。
この人たちが本当にいい人たちなのか、わかりたかった。
本当にサッカーを愛しているのか…。
に注目している。
こんなに注目されるとは言いづらかった。だが、
「皆の話が聞きたい」はそう言った。

「なんだ、まともな会話できるんじゃん」翼が言った。
はむっとして
「あれはそっちがつっかかってきたんでしょ」と言った。
「最初に言ったのはそっちじゃん」翼が言い返した。
「あれは…だってあんなに怒るなんて思わなかったし…」
それにしてはけっこうな言いようであったと思う。
「なに?なんて言ったの?」藤代は悪びれもなく聞いた。
「藤代」渋沢は藤代にこれ以上踏み込まないよう制した。
「ちぇー話わっかんねーんだもん」藤代はすねた。

「ねえ なんでさんはマネージャーをしてるの?」杉原は聞いた。
「西園寺コーチに呼ばれて…」は言った。
「玲が?」翼が言った。
「何か聞いてねーのかよ」
黒川は風祭のベッドからのり出て翼に視線を落とした。
「…」翼はおもいだそうとしている。
「うちの監督と知り合い?」五助がに向かって聞いた。
「西園寺コーチは俺ら飛葉中サッカー部の監督なんだよ」六助が付け足した。
「西園寺コーチとは、の叔父さんが知り合いで」
「あ そっか」五助は納得した。
「でもどうしてだろうね 何かあるのかな」杉原は言った。
「あーもーそうゆう難しい話はやめようぜー」藤代は話についていけなかった。
と、いうかどうにも興味がなさそうだ。
両手を後頭部で組んで、壁に寄りかかっている。
「俺もそー思う」小岩もだった。

「やっぱサッカーしようぜサッカー!」
藤代はよっと身をおこし、案を出した。
「将があそこでやらかすから」翼はその話にのっかってにやっと笑った。
「あれは翼さんが…!」風祭は困った顔をしていた。
「そーいやお前ら怒られたんだっけ」
くくっと黒川は風祭、藤代を見て笑う。

「なにしてたの?」は風祭に聞いた。
「あ っちょっと室内でサッカーを」
風祭言いにくそうに言った。
「そんでこいつ小沢花監督の顔面にシュートしたんだぜ」
藤代が風祭を指差して余計なことを言う。
一同はその出来事を思い出し、爆笑をする。
「叔父さんに!?」は呆れた声で言う。
「ご、ごめんなさい!」風祭は謝った。

「室内でサッカーなんて子供みたいね」が言った。
「それはこいつが風祭のボールをとったからなんだ」
渋沢が藤代を指差して言った。
「おもしろそーだと思ってつい」
てへ と藤代は舌をだした。
彼は冗談のつもりだったのだろうが、
冗談にもならなく可愛かった。
「そー言えば、なんでボール転がしてるの?」は風祭に聞いた。
「ちょっとね」えへへ、と風祭は誤魔化した。
「ぷっ くく」黒川はまた思い出し笑いをしてる。

「キミって本当にサッカーが好きなんだね」は言った。
「風祭だけじゃねーぜ」小岩がベッドの横から顔を出して言った。
「そ!俺らもサッカーを愛してるぜ」藤代はさらりと言った。
「愛してる…はちょっとはずいけどね」翼が呆れて言った。
「でもまあ否定はできないよね」杉原が言った。
風祭は微笑んでる。

それから話は当然のようにサッカー談義になった。
あーでもないこーでもない、皆いろいろと意見をぶつけている。

は少し嬉しくなった。
少なくとも、ここにいる人たちはサッカーを愛している。
それに、あんなに嫌いだと思ってた人も
結局はいい人なのかもしれない。
この人たちのためなら、は頑張れるかもしれない。

「風祭君」
は初めて風祭を呼んだ。
「ん?」風祭はなに?と顔を向けた。
「ありがとう」
この一言で二人はわかりあえた。

ここにいる理由はわかんないけど、
この3日間はこいつらのために頑張ろう。
サッカーを愛してるこいつらのために。

はそう思った。

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あとがき

今日は真面目に喋れそうな渋沢を呼びました拍手〜

渋沢「いいのか、俺で」

いやたまには真面目に話したくってですね

渋沢「まあ 今までのあとがきを見てくるとそうだな」

でしょ?
今回はですね、ちゃんに近づけたと思うんですよ。

渋沢「だんだんとさんがわかってきた気もするが」

どうしてちゃんは合宿に呼ばれたのか
なぜサッカーを愛することにこだわっているのか
謎を暴いていきたいと思います。

渋沢「読者がそれに興味を示すかは別としてな」

ぐはっ!
いたいところを!



20081130