かくれんぼ
「こらシゲ!」
雲ひとつない青空。
さんさんと太陽の光がそそぎこむ屋上。
そこで佐藤成樹はすやすやと眠っていた。
「おーきーなーさい!」
彼女の名前は。
シゲのクラスメイトである。
は寝ているシゲの体をゆすった。
「んー、…もう少し寝かせてや姐さん」
シゲは寝返りをうちながらむにゃむにゃと寝言を言った。
シゲが姐さんと呼んでいるのは、ではなく
担任の香取夕子のことである。
はこんなに起こしても気持ちよく寝ている
そのシゲの幸せそうな顔に腹が立ったのか、
担任と間違われて腹が立ったのか、
がつん!
と手加減なしで思いっきりシゲの頭を殴った。
「っっったあー!誰やこら」
シゲはあまりの衝撃に目を覚ました。
右手で頭をさすって起き上がる。
「なんやかいな
まあこんな事すんのはお前しかおらんけどな」
もっちょっと手加減しいやー、
と言いながらまだ頭をさすっている。
余程痛かったらしい。
んんー!と、シゲは背伸びをした。
どんな起こされ方にしろ、この天気のおかげで
シゲはすがすがしく起きれたらしい。
はシゲがさっきまで寝ていた位置で座りながら
じとーっとシゲを睨んでいる。
それに気づかないシゲ。
「なんやめっちゃええ天気やなー
こりゃ部活は厳しなるわー
お せや今何時やろ なあ?」
とシゲは振り返ってに聞く。
はまだシゲを睨んでいた。
「なんやねん無視かい
あ つーかなんでお前ここにいんねん」
「遅い!」
はその一言を待っていた様子だった。
は立ち上がりシゲにずんずん詰め寄った。
「あんたが教室にいないせいで
あたしはいっつもいっつも伝言頼まれるのよ!
もういい加減にしてよね!」
「わーったわーった!悪かった!」
シゲは降参!と、両手をの前に出して制した。
「んで?伝言てなんや」シゲはに聞いた。
「『1年B組 わたなべあすか
部活終わったら校舎裏に来てください』」
は淡々と用件だけを述べた。
「あすか…知らん名前やな」
「そんなんいつものことでしょ」
は振り返って教室へ帰ろうとした。
「!」シゲは呼んだ。
はシゲのほうに振り返った。
「サンキュな!」
シゲはにかっと笑った。
「今度からは頼まれないからね!」
はそう言うと、階段を降りて教室へ戻っていった。
とシゲはクラスメイトであり部活仲間。
は桜上水サッカー部のマネージャーだった。
入学当初、とシゲはひょんなことからサッカーの話題で仲良くなった。
今でもクラスの女子の中では1番シゲと仲が良い。
だからこそ、シゲへの伝言を頼まれたり、シゲのファンから妬まれたりする。
告白やラブレターを頼まれるなんてことはしょっちゅうだ。
ガラ は教室のドアを開けた。
「あ !おかえり〜佐藤君いた?」
彼女はの親友 田中恭子。
ふわふわとした髪に、黒目の大きい瞳。
とても可愛らしい子であった。
は恭子の席の後ろに座って言った。
「屋上にいたわ」
「で、なんの伝言だったの?」
「愛の告白」
「またー?佐藤君もやるわねえ」
恭子は感心した様子だった。
は感心なんかしていられない。
「まあ佐藤君かっこいいもんね、仕方ないか」
「仕方ないですまされないわよ」
はぶすっとしている。
「あ やきもちだ」
「違う!ほんっといい加減にしてほしいの!
どっかのバカ女たちはあたしとすれ違うごとにぐちぐち言ってくるし!」
「えー佐藤君のこと何も想ってないの?」
「当然!」
ふーん、と恭子は言った。
「素直じゃないなあ」
「え?」
べっつにー、と恭子は言った。
6限目の予鈴が鳴る。
「あ 次生物じゃん急がなくちゃ!」
は慌てて引き出しをあけて用意をする。
恭子は何かを考えている様子だった。
● ● ●
6限目が終わり掃除の時間。
当然のようにシゲはいない。
は教室前の廊下を箒ではいていた。
「ねえ、」
恭子が話しかけてきた。
「なによ 課題なら手伝わないわよ」
「そうじゃないわよ、あのね」
恭子はもったいぶって話した。
「あたし、佐藤君のことスキかも」
は一瞬動きが止まった。
予想もしていない言葉だった。
「え?」
「だから、すきになっちゃったの」
「誰を?」
「ねえ、話聞いてた?佐藤君を!」
「どちらの佐藤君?」
「…いい加減怒るわよ 佐藤成樹君!」
そんなばかな。
今まで自分の周りの友だちでシゲを好きになった人はいなかった。
それなのによりにもよって親友が好きになるなんて。
の中で何かが崩れた。
「ん?どうしたの?」
恭子はの顔を覗き込んできた。
「べ、べつになにも!」
はさっと顔をそむけた。
そして都合悪く奴がくる。
「おーい!」
噂をすればなんとやら。
シゲがに声をかけてきた。
「今日の部活どないすんねん
聞いたらたつぼんの奴休みらしいやん」
「…」
「こらまたシカトかい」
はあまりのショックで頭がまわらなかった。
なんだろうこの気持ち。
「たつぼんって…水野君のこと?」
恭子がシゲに話しかけた。
「まあそう呼んでんのは俺だけやけどな」シゲは答えた。
「たつぼんって水野君のキャラに似合わないね
佐藤君っておもしろーい」恭子はキャッキャと笑う。
は胸の中がむかむかしてきた。
そしてぎゅっとなにかがつままれたような気がした。
箒の柄を握り締める。
「小島さんに聞いてくる」
そう言ってはその場を後にした。
「あ おい!
…なんやねんあいつ」
シゲはわけがわからなかった。
くす、と恭子は密かに笑った。
20081130